どんな議論でも0%か100%といった極端な結論になることはない。ほとんどは条件付きでYesやNoという答えになるだろう。最近話題の「未経験フルリモートは甘えなのか?」議論についても同様で、私はこれは甘えではないと考えている。もちろん条件付きでだ。
渦中の人である某氏は主旨として次のことを述べている:
- フルリモートによって仕事とプライベートの融通を利かせたい。
- サボるつもりはないし、監視されるのでサボれないはずだ。
- 出社する勤務形態は向いていないと考えているので、研修期間も含めて出社はしたくない。
- 業界未経験で能力がない人はどう社会に出たらいいのかわからない。
なるほど、内容としては悪くないし、主張するだけならタダだ。周囲の人間もそこまで目くじら立てて殴りかかるほどのことでもない。それでも「それは甘ったれた考えである」と教えてくれるほうが優しいのかもしれない。後々どうにもならない状況になる前に、方針転換できる可能性を少しでも生み出せるのであれば。
リモートは特殊な働き方だった
在宅勤務の利点
2020年頃に蔓延したコロナウィルスは多くの会社の働き方を変えた。これまで出社前提だったものが、条件付きのリモート勤務や、フルリモートへの転換を図った会社もあったし、中にはこれ幸いとオフィスを引き払って固定費を削減するという思い切った決断をしたところもあった。
コロナが終息を迎え2024年頃からは再び出社を要求する会社も増えてきた。リモート勤務に慣れた人の中には、しぶしぶ出社を始めた人もいれば、リモートを続けられる会社に転職する人もいたようだ。
みんなでリモート勤務をやってみてわかったこともあった。まず通勤時間がなくなることだ。数十分から数時間かけて会社まで行くことは無くなったし、その時間を別のことに使えるようになった。仕事場で人に話しかけられて業務を中断させられることもなくなった。急に家の用事ができても対応できるようになった。なんといいことづくめではないか。
コミュニケーション上の課題
私の会社もリモート勤務が推奨されたが、一番難しいと感じたのは意思疎通だ。一度顔を突き合わせて話をすれば、どういう人かはある程度わかるので、多少チャットの内容が乏しくてもそういうものだと理解できるが、そうでない場合には、思った以上にテキストコミュニケーションにおける感情表現や情報伝達というものは難しく、慣れていないと仕事上の無骨なやりとりでは誤解や不満を与えかねない。
会社によっては場所や生活様式に捉われない働き方の提案として、リモート勤務を継続して認めているところもあるが、おそらくどこも、実際に人と会って話す以上のコミュニケーション能力が求められるという課題を感じているのではないかと考えている。文脈を端折った発言は相手の理解を得られないし、これまで以上に論理的で意思や意図がわかりやすい内容にする必要がある。
成果主義から結果主義へ
自分で自分を管理する
本来出社すれば管理監督者がいるわけで、部下の働きっぷりを見ているわけだ。頑張っているという成果が見えているので、結果が伴わなくても評価するネタは用意できる。しかし、リモート勤務は実際には何をしているのかわからない。ちゃんと仕事をしているかもしれないし、ベッドでゴロゴロとかゲームをしている可能性もある。会社によってはビデオチャットへの接続を強制するところもあるようだが、ほとんどの会社はそんなことはしていないだろう。
そうなったときに、リモート勤務者の評価はその仕事の結果で決まる。勤務態度や結果に至る過程というところは見えにくくなるので、上司も成果物で判断するしかないのだ。この事実は自己管理ができて能力がある人にとっては簡単に守れる約束だが、自己管理ができなかったり、能力がなかったりする人にとっては厳しい圧力となる。
業界未経験のフルリモート勤務は存在しないとは言わないが、未経験者は結果が出ない期間がしばらく続くので、最初からフルリモートという働き方は相性が悪く、お互いに不幸を招きかねない要素を孕んでいる。
信用商売
つまり、フルリモート勤務はサボっていようがいまいが、そんなことは関係ない。やるべきことをやっていれば誰も文句を言わないのだ。その人を信用して裁量を委ねているので、裏でネットサーフィンしていようが、コーヒー淹れてようが、ゲームをしていようが、そんな細かいことはどうでもよい。どうせ出社しても誰かと雑談のひとつやふたつするわけなのだから。とにかく、リモート勤務者のなすべきは結果を出すことだけだ。それだけで信用が勝ち取れる。
だけれども、自分は意思が弱く、出社して緊張感がある中でないとちゃんと働けないということであれば出社すればいいわけで、仕事をしているという態度を見せることで、これでもまた信用が得られる。
結論としてフルリモート勤務には信用や信頼という貸しが与えられていて、結果でもってそれを返さなければならない。この貸し借りの関係は、ある程度の自己解決力や責任感、そして高いコミュニケーション能力があって初めて成り立つ。
自身の努力は?
世界はどんどん能力主義に変化している
未経験者歓迎と言いつつも、それは方便だ。世界は確実に能力主義に傾いてきている。企業はいつでも即戦力を求めているし、雇う側からすれば未経験者よりも経験者が来てくれるほうがいいし、就労条件も緩い人のほうがいいに決まっている。この動乱の時代では他者を出し抜いて少しでもビジネスで成功を収めなければならないからだ。
それにそもそも会社は学校ではない。同じ志を持った人たちが協力関係を持って分業することで儲けを得るための組織なので、助けてもらって当たり前といった態度の人間や、言われたことだけをやる人間はテイカー気質であり、貢献度が低い。そういう気質のある人は最初から雇われないか、雇い入れられたとしても長くは続かないだろう。
自分はギバーになれているか?
新卒や準新卒で若さがあれば、これからの成長という期待があるので、未経験であってもどこかが拾ってくれるだろう。一方で、自分の将来が思い描けている人は、社会に出る前にすでに行動しているし、やりたいことがあれば経験がなくてもそれなりに調査して飛び込んで、自分の市場価値を高めているはずだ。
だが人は様々な環境で生まれ育つ。その中で漫然と学生時代を過ごし、手に職持たず社会に出ることもあるし、それ自体は悪くない。しかし、社会に出たら基本的にはギブアンドテイクの関係だ。自分からのギブが提示できずテイクだけなのであれば、ギブができるようになるまでは自分の要求を通すことは難しいのかもしれない。