TRPG (Tabletop RPG)には簡単なルールのものから複雑なものまであり様々ではあるが、ここで取り上げるnRR (no Rule Role)はダイスとそのロールの機能だけを提供するといった変わり種である。

公式の説明によれば、「TRPGをルールブックなしで遊ぶことができる、最もミニマムなシステムです」とあるが、システムというほどの仰々しいものではなく、TRPGの参入障壁となりうる複雑なダイスロールやそれを含んだ計算を排して、もっとカジュアルに楽しむために過程ではなく結果をロールする仕組みを提供するものだ。

多くのTRPGでは一般的な から までの数字が入ったダイスを使い、これをロールする(振る)ことになるが、この値と動作のことを のように表現する。さらにダイスを 個振るならば、 となる。複数個のダイスを振った合計値は となるが、得られるのは数値であり、TRPGにおける何かしらの行動の結果を求めるには、ここから値を足し引きしたり、また別の値との以上以下未満といった条件を判定したりする必要がある。

この計算過程を含めて楽しむこともTRPGの醍醐味ではあるが、初心者にとっては麻雀の点数計算のように複雑であり、理解を持ってセッションに臨むためにはルールブックを読み込んで状況に応じた正しい処理ができるようになるための準備がいるが、nRRにはダイス自体に成功・失敗といった結果そのものが刻印されているので判断に迷うことがなく、新規参入の手助けになるのではないか?という想定に基づいた仕組みであるようだ。

ここではnRRの仕組みを解説した上で利点と欠点を述べ、nRRの範疇でできる課題の解決の方法を提案する。とは言っても私もnRRを採用したシナリオを作ったことがないので、これは検討した結果の備忘録としての扱いでもあるのだが、それでも誰かの参考になれば幸いである。

nRRの概要

nRRには4つのダイスが用意されており、それぞれ不利ダイス・ノーマルダイス・有利ダイス・Exダイスと呼ぶ。それぞれのダイスには名前から連想されるように特徴づけがなされており、状況に応じたダイスを選択してロールすることになる。

Quote

プレイヤーの行動の結果をジャッジする「判定」の仕組みしかありません。 
その判定方法も「ダイスを振って、出目を見るだけ」という非常に単純なものです。

ダイスの種類

不利ダイス

6面の「不利な状況、苦手な行動、難しい行動などで使用するダイス」である。成功(33.3%), 失敗(50.0%), ファンブル(16.6%)で失敗の結果が出やすくなっているものの、成功確率は33.3%残されており、プレイ体験を損なわないように調整した結果とも言える。

他方、ほぼ成功しないような状況を不利ダイス単体で表現することはできないので、nRRが目指す簡潔さに従って自動失敗にするか、後述のMINロールを採用することが考えられる。

ノーマルダイス

8面の「通常の判定で使うダイス」で、成功も失敗も同確率で発生するようになっている。クリティカル(12.5%), 成功(37.5%), 失敗(37.5%), ファンブル(12.5%)である。

有利ダイス

10面の「有利な状況、得意な行動、簡単な行動などで使用するダイス」で、かなり有利に寄せている。クリティカル(20.0%), 成功(50.0%), 失敗(20.0%), ファンブル(10.0%)で実に70%の確率で成功する。

Exダイス

12面の「神秘的なものの助けがあったり、超常的な力を使ったりと、特別な状況でのみ使用するダイス」で、クリティカルの多さに目を奪われるが、成功扱いの確率は有利ダイスより低い66.6%に留まり、ファンブルに至っては不利ダイスと同様高めに調整されているために、一か八かといった要素も含んでいる。ミラクル(16.6%), クリティカル(33.3%), 成功(16.6%), 失敗(16.6%), ファンブル(16.6%)となる。

ライセンス

「nRRはオープンソースです。ご自身の創作物に、ご自由に利用することができます。商用・非商用などを問わずに、許諾なくご利用いただけます」とあるが、オープンソースというのは本来コンピュータプログラムに対して適用されるものなので、ここでの意味合いは「自由に利用・改変・共有」ができる状態にあることを指していると思われる。

利点

簡素化されたロール

なんといっても見てわかるように、ロールして結果を見るだけで済む。プレイしているキャラクターがどれくらいの技能値を持っているかとか、スキルやタレントを持っているとかはあまり気にしなくてよくなる。この判定は得意だから有利ダイスを振る、苦手だから不利ダイスを振る、くらいの感覚のカジュアルなロールができる。

必然的に計算上の煩わしさも排除できる点もいい。以上以下未満、切捨て切上げ四捨五入で悩むことがないし、近接攻撃だから遠距離攻撃だからと複雑な式を持ち出す必要がない。得意・苦手・どちらでもない・奇跡が起きているか?だけの判断基準は明確だ。

ダイスの設計

不利ダイス(6面)・ノーマルダイス(8面)・有利ダイス(10面)・Exダイス(12面)の4種類のダイスはすべて面数が異なり間違いを防止できるほか数字も刻印されているので、nRRとしての利用のみでなく、一般的な 面ダイスとしての価値が損なわれていない。刻印もデザイン性が高く、美麗なピクトグラムを採用しており、感覚的に結果を理解できるところは魅力的と言える。

昨今ではオンライン上でもセッションができるので、実物のダイスを振るよりもダイスローラーやダイスボットといった仮想的なものに置き換わってはいるが、実物も販売しておりBOOTHや池袋にあるCCFOLIA BOOKSで買い求めることができるところも嬉しい限りだ。

2025年11月現在ではダイス4個セットで2,400円と少々高めの価格設定であり、特注品であることを考慮すると妥当ではあるが、良くも悪くも一般的なダイスの延長線上にあり、どうしてもリアルでセッションをしたいとか、ファンアイテムとして持っていたいとかの理由がなければ見送ってもいいかもしれない。個人的には思ったよりも大きく、転がりにくいところが難点で、欲を言えばカラーでの刻印があってもいいとは感じた。

俺TUEEEの抑止

通常のTRPGではキャラクターが天地を揺るがすほど強くなることは稀であるし、そうなる前にキャンペーンが終了するとか、死亡するとか、飽きるとかして同じキャラクターを使い続けることはなくなる。特に思い入れが強いキャラクターになれば、セッションに参加させることは死亡リスクがついて回るので名誉の引退を選ぶこともある。しかし逆に十分過ぎるほどに強いキャラクターを作り無双状態にあれば、楽しいかは別としてキモチよくなれるプレイも可能ではある。俗に俺TUEEEメアリー・スーと言われるものだ。

しかし、nRRはどこまで行っても失敗やファンブルは用意されている。ほかのゲームシステムであれば100%成功するような判定であっても仕損じる可能性は残されている。これをスリルがあって楽しいと見るか、ナンセンスと思うかは人次第だが、失敗することによって生まれる楽しさは損なわれていない。

自由度の高さ

nRRではダイスの種類と結果の解釈しか定義されていないので、それ以外についてはシナリオやセッションの参加者(ゲームマスターやキーパー含む)に任されることになる。複雑なルールがない反面、状況によってはアドリブ力が試されることになり、むしろ特定のゲームシステムという型にはまるほうが楽かも知れないが、やり方次第では既存の枠に囚われない柔軟で目新しいセッションが可能ということでもある。

あるいは、新しいゲームシステムを取り入れたいが、ロールや判定の部分で悩ましい状況に置かれているのであれば、nRRのようにある程度認知度がある仕組みを取り入れることで、既存の仕組みを利用できる、新規の参入にも繋がりやすくなると考えられる。

ただ、狙って簡素化されたルールに従うので、場合によっては有利ダイスがそれほど有利ではないとか、不利ダイスが少し不利すぎるということがある。そうした課題を解消するために、文末の「追加ルールの提案」では、いくつか追加のロールを定義することで、期待される結果と実際の結果の溝を埋める提案を行っている。

欠点

キャラクターとの親和性

nRRは俺TUEEEとまではいかないが、特別に秀でていたり苦手だったりするロールをすることは得意ではない。コンピュータに超詳しいオタク君が簡単なハッキングを失敗することや、筋肉モリモリのマッチョマンが何かを壊し損ねることは考えにくい。実際に有利ダイスは70%の確率で成功扱いのロールとなるが、失敗は30%もある。ウッカリ失敗するにしても過ぎるところがあるだろうという印象を受けなくもない。

これはすでに用意されているダイスをロールすることで結果を得るというnRRの考え方と衝突するところなので、自由度の高さの項で述べたように臨機応変に対応したい。例えば特に秀でている要素があれば自動成功にしてもいいし、後述のMAXロールのようなルールを導入してもいいだろう。ルールが少ないが故の拡張性の高さを逆手に取ることで、納得感のあるセッションが可能となる。

奇跡を起こせるか?

Exダイスの使いどころは少々難しい。「神秘的なものの助けがあったり、超常的な力を使ったりと、特別な状況でのみ使用するダイスです」とあるように、使用できる状況が限られている。ファンタジーやクトゥルフ神話要素を含むなら精霊や神との交信を自然に組み込めるが、魔法や神を否定した現代やスチームパンク、サイバーパンク世界が舞台であれば、よりExダイスの出番は限定的になるだろう。

これも解釈の仕方次第ではあるが、必ずしも直接的に神秘や超常的なものと触れる必要はない。聖遺物(レリック)やアーティファクト、レガリアといった代替物を用意することでもExダイスを使う理由づけになり得るかも知れない。

いっぽうで奇跡というものは滅多に起こらないから奇跡であり、ここぞというときに出番があることで楽しいセッションになるのであって、Exダイスが次から次へと使われたり、Exダイスの出番をわざわざ作ったりするシナリオは流石に大味とか、手段と目的が逆転としていると評されても不思議ではない。

戦闘の欠落

TRPGの重要な要素である戦闘が欠落している点は無視できない。戦闘が定義されていないということはそれ自体はもちろん、戦闘に関わるキャラクターやモンスターの設定をはじめ、どういう行動ができてなにが起きるかも決められていないということだ。

そのため、ある程度は何かしらのシステムを参考にしなければならないか、手間をかけて作り込む必要があり、後者の場合は深入りしすぎると新しいゲームシステムを作ることにもなってしまってせっかくnRRを採用した意味がなくなってしまう。今のところnRRを戦闘を含むシナリオに採用することは悩ましい課題である。

採用シナリオの普及

nRRを直接採用しているものもあるし、ほかのゲームシステムからコンバートしてnRRに準拠させたシナリオもあるが、普及の面ではBOOTHTALTOを見る限りでは認知はされているものの、広く普及しているとは言い難い。

簡易的な仕組みである一方、ダイスロール以外の要素を充足することに手間を取られるので、大規模で複雑なシナリオになるほどnRRを採用することは困難になるかもしれない。少なくともシナリオの冒頭でnRRを使った各種判定を漏れなく定義しておかなければならないし、その独自ルールに対する前提知識がない状態でのゲームプレイとなるので、シナリオを書く側もプレイする側もnRRの取扱いには意識して臨む必要が出てくる。

また、既存システムからのコンバートはまだら牛氏の投稿にも方法が書かれているものの、「めちゃくちゃ簡易的に運用したもの」とあるように、このコンバート例は一提案にすぎず、コンバート元のシナリオと同じプレイ体験になるように調整が図られている保証はない。ダイスロールの調整を重ね、可能であればテストプレイを何回か行う等の試行錯誤の時間は設けたい。

課題を解決する

ここではnRRのダイスロールに求められるであろういくつかの道具を提案する。いくつかの状況ではnRRが求める簡素なTRPGの形とプレイヤーが期待する結果の間で、よい着地点を見つけられるかもしれない。

MAXロール

このロールは 個の特定のダイスを振り、その中で一番いい結果を取り出す。例えばノーマルダイスを3個振って〈成功〉〈失敗〉〈クリティカル〉が出たときは〈クリティカル〉を採用する。 としたときの結果は次のようになり、 の値が大きくなるほど有利な結果が出やすくなる。ここでは便宜的に と表記する。

ファンブル失敗成功クリティカルミラクル
不利ダイス ()16.6%50.0%33.3%
不利ダイス ()2.7%41.6%55.5%
不利ダイス ()0.4%29.1%70.3%
ノーマルダイス ()12.5%37.5%37.5%12.5%
ノーマルダイス ()1.5%23.4%51.5%23.4%
ノーマルダイス ()0.2%12.3%54.4%33.0%
有利ダイス ()10.0%20.0%50.0%20.0%
有利ダイス ()1.0%8.0%55.0%36.0%
有利ダイス ()0.1%2.6%48.5%48.8%
Exダイス ()16.6%16.6%16.6%33.3%16.6%
Exダイス ()2.7%8.3%13.8%44.4%30.5%
Exダイス ()0.4%3.2%8.8%45.3%42.1%

検証は次のようなPythonのコードで行っている。

import enum
import itertools
 
class DiceResult(enum.IntEnum):
    FUMBLE = 0
    FAILURE = 1
    SUCCESS = 2
    CRITICAL = 3
    MIRACLE = 4
 
class Dice:
    DISADVANTAGE = [DiceResult.FUMBLE, DiceResult.FAILURE, ...]
    NORMAL = [ ... ]
    ADVANTAGE = [ ... ]
    EXTRA = [ ... ]
 
n = 3
dice = Dice.DISADVANTAGE
 
result = {v: 0 for _, v in DiceResult.__members__.items()}
for x in itertools.product(*([dice] * n)):
    result[max(*x)] += 1
for k, v in result.items():
    print(f"{k.name} = {v / sum(result.values()) * 100:.1f}")

MINロール

MAXロールとは逆に一番悪い結果を採用する。不利ダイスは依然33%の成功率があるわけで、ほかのゲームシステムでは1%から5%程度でしか成功しない状況においてもっと不利にしたいときにうまく働く。

ファンブル失敗成功クリティカルミラクル
不利ダイス ()16.6%50.0%33.3%
不利ダイス ()30.5%58.3%11.1%
不利ダイス ()42.1%54.1%3.7%
ノーマルダイス ()12.5%37.5%37.5%12.5%
ノーマルダイス ()23.4%51.5%23.4%1.56%
ノーマルダイス ()33.0%54.4%12.3%0.2%
有利ダイス ()10.0%20.0%50.0%20.0%
有利ダイス ()19.0%32.0%45.0%4.0%
有利ダイス ()27.0%38.6%33.5%0.8%
Exダイス ()16.6%16.6%16.6%33.3%16.6%
Exダイス ()30.5%25.0%19.4%22.22%2.78%
Exダイス ()42.1%28.2%17.1%12.0%0.4%

NDロール

このロールは で有効で、ロール結果の最頻値を採用する。最頻値が出なかったときは再度ロールを行う。MAXロールやMINロールのように結果を良い方向・悪い方向に強く修正するわけではなく、結果を正規分布に従わせることで、期待する結果を出やすくしている。 ではゾロ目ケースしかなく、うまく働かないことには留意したい。

ファンブル失敗成功クリティカルミラクル
不利ダイス ()16.6%50.0%33.3%
不利ダイス ()8.3%61.3%30.3%
不利ダイス ()3.2%72.7%23.9%
ノーマルダイス ()12.5%37.5%37.5%12.5%
ノーマルダイス ()5.6%44.3%44.3%5.6%
ノーマルダイス ()2.0%47.9%47.9%2.0%
有利ダイス ()10.0%20.0%50.0%20.0%
有利ダイス ()3.5%13.3%69.7%13.3%
有利ダイス ()0.8%6.6%85.9%6.6%
Exダイス ()16.6%16.6%16.6%33.3%16.6%
Exダイス ()13.1%13.1%13.1%47.6%13.1%
Exダイス ()8.8%8.8%8.8%64.5%8.8%

ここでの検証は先ほどのPythonのコードを少し変更したものを使用している。

def mode(values: tuple[DiceResult, ...]) -> DiceResult | None:
    r: list[DiceResult] = []
    t = len(values) // 2 + 1
    for k, vs in itertools.groupby(values):
        if len(list(vs)) >= t:
            r.append(k)
    return r[0] if len(r) == 1 else None
 
result = {v: 0 for _, v in DiceResult.__members__.items()}
for x in itertools.product(*([dice] * n)):
    m = mode(x)
    if m is not None:
        result[m] += 1
for k, v in result.items():
    print(f"{k.name} = {v / sum(result.values()) * 100:.2f}")

結論

nRRはTRPGのダイスロールをわかりやすく簡素化しており、引算の美学にも通ずるところがある。複雑になりすぎたシステムを壊して重要なエッセンスだけを抽出することは、ゲームの面白さとは何か?を追求することに他ならないし、価値のある取組みと言える。どれだけグラフィックスが向上してもゲームボーイやスーパーファミコンのゲームが面白かったように、リッチなインタフェースがあること自体が面白さには直結しないのである。

しかし、そのエッセンスは本質的で原始的すぎるところがあるので、ただ単純に使ってうまくいく類のものではなく、露骨にならないよう利点と欠点をよく分析して使いどころをうまく見極めるとか、欠点をうまく利点に転換するといった工夫が要る。

私からすればnRRはなにかワクワクとさせてくれるものであって、どうにか使える箇所がないかこれからも模索していきたいし、nRRを取り巻くエコシステムが徐々に発展していけばいいように考えている。