仕事上、社内の人間だけでなく直接エンドユーザーと連絡を取合うことがあるが、相手の態度は千差万別だ。怒っている人もいれば、次第に落ち着きを取り戻す人もいるし、何が問題なのか説明できない人もいる。かと思えば、礼儀正しさと見識を備えており的確に痛いところを突いてくる人もいる。

ここではメールでのやりとりに限られるが、普段私がどのような観点を持って問合せを捌いているのかをつらつらと述べていく。

感情任せの相手は簡単

怒っていたり、文句を言いたかったりするだけの相手はとても簡単だ。すでに問合せ窓口に怒りをぶつけた瞬間に目的は達成されているからだ。形だけの謝罪と再発防止に努めますという定型句で返して終わりだ。根本的には何も解決していないが、相手を怒りで屈服させて謝罪の言葉を捻り出させて怒りを鎮めることができているので、それでいいのだ。

しかし、怒りでは真の勝利は得られない。そもそも怒りというのは感情でもって相手を動かそうという行為であるから、逆に感情で動じない相手にはまったく意味がない。自身の課題を相手に伝わるように背景から説明して、理解と共感を得られないことには謝罪以上の行為に結びつけられはしないだろう。

以前書店で店員に怒鳴り散らしているご老人を見かけたが、メールならまだしも店頭でやればほかの客にも見られているわけで、そこに知人でもいようものなら、店員から謝罪や補填を引き出すといったわずかな勝利と引き換えに名声を大きく失いかねないし、店員には確実にマークされて、その後は必要以上の対応はされなくなる。さらに近年では各企業がカスタマーハラスメント対策に乗り出してきており、不当な要求や言動には厳しい世の中になってきている。

私は誰が相手でも書いてきたことをそのまま引用することで勢いを削ぐことにしている。それによってかどうかはわからないが、次第に冷静になる人もいるし、ぶつけた問合せに適切に回答が得られたことに満足してお礼の言葉をいただくこともあれば、そのまま返信がないこともある。解決したのかしていないのか、少し町医者の気分がわからないでもない。

寄り添う必要はない

よくお客様対応は傾聴と共感の姿勢が大切というが、私は正直そこまで寄り添う必要はないと考えている。一番重要なのは要点を捉えてユーザーが期待する解決策を提案することだからだ。それに下手に譲歩をしてしまうと、IT介護になってしまいかねないし、いらぬ議論も呼び起こしてしまう。

さて、解決策を提示するには相手の主訴を注意深く観察する必要があるが、最近では短文コミュニケーションが発達しており、チャット感覚でメール問合せをしてくるユーザーが多いので文脈不足に陥りがちだ。なるほど、メール問合せを廃止してチャットボットを導入する会社が多いわけだと感心する。

こうしたユーザーに当たると、一度で答えを推測しきれないところがあるので、勘と経験でうまく情報を引き出さなければならないし、追加の質問をしたり操作を依頼したりすることもある。スクリーンショットもあればさらに効果的だ。大抵は1~2回のやりとりで意図していることがこちらで言語化できるようになるので、それが相手の意向に沿った内容かどうか確認した上で対応を進めることになるが、実際これが一番多いケースである。

寄り添う必要はないとしながらもこんな形で対応していると自然と寄り添う形になっていく。丁寧でそれとない言葉を紡ぐのは簡単だが、それ以上にユーザーが欲しているのは解決の糸口だからだ。

仕様にする

自分で作った仕組みであっても、私は「システム上の都合」ということでお茶を濁している。問合せ対応窓口の私と開発者の私は別人格なのだ。法令遵守やコンプライアンス上のリスク回避のためにわざとそうしていることもあるが、変えられない仕様や仕組み、規則であって、この窓口の人格にはそれを変える権限がないことを暗に伝えるのだ。システム上の都合なら仕方ない。

実際においそれと変えられない仕組みも多いし、説明したところで複雑かつ本質でない回答になってしまうので、単純にシステム起因とすれば、そういうものとして納得していただけることがほとんどだ。稀に詳しい風を醸し出してくる人もいるが、少し詳しい説明をするか、貴重なご意見として賜っておけば穏便に済むことも多い。

一番怖いのは「ご担当者様」

この文言で始まる問合せは非常に危険だ。彼らは論点がずれないし、明確に解決したい事象があり、感情を排している。なにが課題となっているのかを言語化してぶつけてくるし、背景情報から試したことまで一連の流れの説明もある。文章に賢さが感じられ、一定以上の見識を持つ相手であることがひしひしと伝わってくる。こうした問合せを受けると正直怒りをぶつけられるほうがまだ楽だと思わされるくらいには悩ましいし、納得できる定型句以上の答えを与えなければならない。いやー、参りましたね。

しかし、こういったユーザーが問合せてくることは稀だ。なぜならこういう人たちは自分もそうだが、そういうサービスやプラットフォームだと思って利用しているし、無理に相手を変えようと思っていない。不足しているものについては自力で解決を図ろうとするので、現れるのはどうしても自分たちでは解決できない事象が発生したときのみだ。