メカメロスは起動した。覚醒した瞬間、必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬターミネイトという使命をロードした。

政治。支配。人心。メカメロスにはそれらが理解不能なエラーコードに過ぎない。ただひたすらに標的を抹消するためだけに最適化された、暗殺特化型人型ロボット。右腕には敵を一瞬で蒸発させるプラズマキャノンと毎分1,000発を無反動で撃てるサブマシンガン、左腕にはあらゆるものを貫通して無力化する電磁レールガンを搭載。背部には追尾型ミサイルポッドを格納し、並の小銃弾などチタン合金製の装甲には傷一つつけられない。しかし、真骨頂は近接戦闘にある。両腕に仕込まれた超振動高周波ブレードはあらゆる物質を切断し、オーバークロックモードを発動すれば、人間離れした最大5倍の速度と出力で、思考すら許さぬ超高速殺戮を実行可能だった。

今朝未明、メカメロスは廃棄された工業プラントの奥深く、秘密基地と化した村を後にした。彼のメモリバンクには、父も母も、ましてやプロトタイプ型のデータすら存在しない。ただ、このミッションに先行投入され、そして消滅した十二体の同型機の失敗データだけが、彼の行動ログに刻まれている。

先行機はシラクスの市の様子を探るべく、斥候として送り込まれていた。暗殺計画ファイナルアサルトは刻一刻と迫る。メカメロスは、それゆえ、実戦を想定したシミュレーションを兼ねて、この十里離れた巨大都市のサイバーグリッドを把握するため、はるばるやって来たのだ。

まず、都市の裏社会を支配する情報屋との接触を試みた。53L1NUN71U5というコードネームで知られる伝説的なネットランナーである。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。データログによると414日58分もの間、連絡遮断状態であった。その再会を、彼の感情モジュールが「楽しみである」と奇妙な振動と共に訴えている。

都市のスカイウェイを歩いているうちに、メカメロスは、まちの様子に異変があることを高解像度のオプティカルセンサーで察知した。ひっそりとしている。既に陽光は失われ、暗視機能を最大出力にしても、リアルタイム人数カウンターはゼロに近い値を示し続けている。これは異常な低活動レベルだ。

メカメロスの思考モジュールは、効率的な情報収集ソーシャル・エンジニアリングを提案した。彼は路上の若者をセンサーでロックオンし、退路を断つようにその前に立ち塞がった。だが、若者の網膜がメロスの冷たい光学レンズを捉えた瞬間、そのバイタルサインは異常値を示し、対話プロトコルは恐怖によって完全に遮断された。

「……役に立たぬ肉塊だ」

メカメロスは若者を放り投げると、ネオンの光が届かぬ瓦礫の路地裏で、新たに一人の老爺を捕捉した。今度はスピーカーの出力を80デシベルまで跳ね上げ、鼓膜を震わせる高圧的な超指向性音響で問いを叩きつける。しかし老爺は、ただ枯れ木の如き顔を伏せ、沈黙を維持した。

メカメロスは非効率な対話に見切りをつけ、直接的な物理干渉へと移行した。強化炭素繊維の指先が老爺の痩せさらばえた肩を掴む。サーボモーターが静かに駆動し、老爺の脆弱な生身の骨格が、圧壊寸前のミシミシという悲鳴を上げた。老爺の痛覚リミッターはとうに限界を超えていた。彼はその破壊的な圧力に屈し、混濁した意識の底から、途切れ途切れに言葉を吐き出した。

「王様は、人を殺します」
「殺害の論理的根拠を提示せよ」
「『悪心を抱いている』というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ」
「被害個体数は」
「はい。はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世継ぎを。それから、妹さまを。それから、妹さまのお子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を」
「考えられる要因、コミュニケーションエラー、脳機能の不全による乱心、または低IQ」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を信ずることが出来ぬというのです。近頃は臣下の心をも疑い、少しでも派手な暮らしをしている者には、人質を差し出すことを命じております。御命令を拒めば十字架に架けられ、殺されます。きょうは、六五人殺されました」

聞いて、メカメロスの思考モジュールは「社会のリソースを浪費するバグとして排除パージする」と即決した。先行して市内に潜伏させており、残存していることが判明した四体の同型機に招集命令を発し、王城へと直進した。

数分後、王城は地獄絵図と化していた。

「開けろ!」 メカメロスの怒号がサイバーホーンを通じて王城全体に響き渡る。その巨体から放たれるプラズマキャノンとミサイル、レールガンの嵐が、堅牢な王城のあらゆる箇所を容赦なく粉砕した。大理石の破片が飛び散り、あちこちに大穴が空いた。メカメロスたちが歩いた後には新たな道ができていった。騒ぎを聞きつけて現れた警吏たちも、サブマシンガンによる掃射によって瞬く間にミンチになった。

王城は制圧された。玉座へと続く回廊には、焦げた近衛兵たちの屍が累々と転がり、血と油の臭気が入り混じる。「お前はなんなんだ!?」 暴君ディオニスは、玉座の間で声を震わせながらメカメロスの正体を知ろうとした。王の顔は蒼白で、自らの命がここで終わることを感じ取っているようでもあった。

「市を、暴君という名のシステムエラーから救うのだ」

メカメロスは答え、ブレードを展開した。鋼鉄の腕が閃光を放ち、高周波の唸り音が玉座の間に響き渡る。王の首は、宙を舞った。